私が生まれ、高校卒業まで過ごした家は糸魚川の古い町屋だ。

数年前の駅北大火で、かろうじて延焼をまぬがれた雁木(がんぎ)通りの一角にある旧倉又茶舗――茶の間には囲炉裏(いろり)があり、いつも曾祖母が店番をかねて座っていた。

そして「お茶飲むかいね」と客をもてなしていた。そのお茶とは抹茶でも煎茶でもなく、〈バタバタ茶〉のことである。私より年上の人は〈たて茶〉ともいう。

茶を泡立て、泡とともに飲む〈振茶(ふりちゃ)〉と呼ばれる飲み方は、かつてはどの地方でも行われていたようだが、今では珍しい風習になってしまった。

糸魚川では保存会や市役所職員有志の努力で、途絶えずに継承されている。私も曾祖母がバタバタ茶専用に使っていたあめ色の五郎八(ごろはち)茶わんや茶せんを大切に保存している。

 ちなみに私は今年70歳。町屋も、町屋の生活を伝える人も少なくなった。私が知っているのは旧倉又茶舗の習わしだけだが、覚えているうちに語っていこうと思う

新潟日報 朝刊掲載「甘口辛口」12/8

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